デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network, DMN)は、「何もしていないとき」に活動が高まる脳内ネットワークです。
DMNが研究され始めたのはおよそ20年前。最近では、DMNの活動異常と精神疾患や発達障害の関係が調べられているほか、瞑想中にはDMNの活動が下がるといった報告もあります(詳しくはこちら)。
以下では、DMNとは何か、 DMNがどんなときに活動するかについてご説明します。
何もしていないのに活動するDMN
「頭をフル回転させる」という表現があります。一生懸命何かに取り組むと脳の活動が高まるというイメージは、多くのひとが持っているのではないでしょうか?
実際に、脳のイメージング研究では、「何かしているとき」に活動が高まる脳領域を探します。しかし、実のところ、この活動の増加は、せいぜい5~10%程度です(Raichle & Mintun, 2006)。頭をフル回転させるというのは、少々言い過ぎかもしれません。
では、「何もしていないとき」の脳はどうなっているでしょうか?何もしないでぼーっとしているときには、脳が働いていないようなイメージがあります。しかし、この予想に反して、「何もしていないとき」に活動が高まる脳領域が複数あることが知られています(Shulman et al., 1997 )。
Fig.1には、「何もしていないとき」に活動を高める脳領域が青で示されています(Buckner et al., 2008より引用)。 活動が高まる脳領域が、広範囲に分布していることがわかります。

Fig.1 「何もしていないとき」の脳活動。青色で示されているのが活動が高い領域で、Default Mode Network(DMN)に対応している。上は左脳の外側、下は左脳の内側の活動パターン。Buckner et al., 2008より引用。
現在では、これらの脳領域が、互いに影響しあう「脳内ネットワーク」を形成していることがわかっており、デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network, DMN)と呼ばれています。「デフォルト」は、IT用語で「標準的な動作環境」といった意味合いの言葉です。
何もしていないときだけじゃないDMNの活動
DMNは、「何もしていないとき」に活動する神経ネットワークとして知られるようになりましたが、現在では様々な状況でDMNが活動することがわかっています。DMNの活動は、しばしば「脳のアイドリング状態」と表現されます。確かに「何もしていないとき」の脳活動という意味では、非常にわかりやすい表現なのですが、様々な状況でDMNが活動することがわかっている今では、少々ミスリーディングな表現かもしれません。
色々な状況でみられるDMNの活動
「何もしていないとき」のほかに、DMNの活動が増加する状況として、
- 自分にかかわる記憶を想起しているとき(Autobiographical memory)
- 未来を想像しているとき(Envisioning the future)
- 他者の心の状態(目的・意図・信念など)を推測しているとき(心の理論、Theory of mind)
- 道徳的な意思決定をしているとき(Moral Decison Making)
などが知られています(Fig.2 Buckner et al., 2008より引用)。Fig.2のA〜Dが、上述の実験状況で観測された脳活動です。

Fig.2 色々な状況でのDMNの活動。 A. 自分に関する記憶、B. 未来の想像、C. 心の理論、D. 道徳的意思決定を行っているときの脳活動パターン。Buckner et al., 2008より引用。
これらの図と「何もしていないとき」の脳活動である Fig.1を比べてみると、活動パターンが類似していることがわかります。考えてみれば、「何もしていないとき」と言っても、無念無想でいるわけではありません。家族で海に行ったこと、引越しに必要なお金のやりくり、上司からの評価、どうしても許せないあのひとのことば、そんな諸々の雑事に頭の中が占領されていることがほとんどではないでしょうか。
ここで注目していただきたいのは、上述したDMNが活動する状況がどれも「心の中で起こっている」という点です。あの夏の思い出、新生活の不安、あのひとの考え、正義、これらはどれも心の中に存在しています。このことから、DMNは、「内的な世界」の情報処理とかかわりの深いネットワークだと考えられています(Buckner et al., 2008、詳しくはこちら)。
雑念とDMNの活動
本を読んでいる途中、はたと気づくと前のページからの内容がまったく頭に入っていないということは、よく起きます。たった今行っていることから注意がそれて、うわの空になることを、マインドワンダリング(Mind wandering)といいます。ひとは1日のおよそ半分をマインドワンダリングに費やしており、マインドワンダリングしているときは幸せ度が低いという報告もあります(Killingsworth & Gilbert, 2010)。
DMNはマインドワンダリング中にも活動が増加することが知られています。英アバディーン大学のMacrae博士らの報告によれば、マインドワンダリングが起こるときにはDMNの活動が増加しており、マインドワンダリングが多いひとほどDMNの活動が高い傾向があるそうです(Manson et al., 2008)。
自身の呼吸を数えることに集中する数息観でいえば、雑念が出てきて呼吸をいくつまで数えたかわからなるのは、マインドワンダリングの典型的な例です。マインドフルネス瞑想の言葉を借りれば、「今ここ」から注意がそれた状態です。実際に、呼吸に集中する瞑想時の脳活動を調べた研究では、雑念に呑み込まれているとき、DMNの活動が増大していることが示されています(Hasenkamp et al., 2012)。
病気とDMNの活動?
一部の精神疾患や発達障がいを持つひとの脳で、DMNの活動異常がみられることが知られています。統合失調症やうつ病ではDMNに含まれる脳領域の活動が増大するとともに、DMNの諸領域間の結びつきが強くなっているのに対し(Whitfield-Gabrieli & Ford, 2012)、自閉スペクトラム症やアルツハイマー病ではDMNの活動が低下していること知られています(Buckner et al., 2008)。
これまでの所、DMNの活動異常が、精神疾患や発達障がいの「原因」なのか「結果」なのかは、わかっていません。今後のさらなる研究が待たれます。
まとめ
- デフォルトモードネットワーク(DMN)は、「何もしていないとき」に活動を増す脳領域が作る脳内ネットワーク
- DMNの活動は、自分に関する記憶の想起・未来の想像・他社の心の推測、道徳的ジレンマをはらんだ意思決定などの状況でもみられる
- 瞑想中、雑念に呑み込まれているときにもDMNが活動している
引用
- Buckner, R. L., Andrews‐Hanna, J. R., & Schacter, D. L. (2008). The brain’s default network. Ann. N. Y. Acad. Sci., 1124(1), 1-38.
- Hasenkamp, W., Wilson-Mendenhall, C. D., Duncan, E., & Barsalou, L. W. (2012). Mind wandering and attention during focused meditation: a fine-grained temporal analysis of fluctuating cognitive states. Neuroimage, 59(1), 750-760.
- Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932-932.
- Mason, M. F., Norton, M. I., Van Horn, J. D., Wegner, D. M., Grafton, S. T., & Macrae, C. N. (2007). Wandering minds: the default network and stimulus-independent thought. Science, 315(5810), 393-395.
- Raichle, M. E., & Mintun, M. A. (2006). Brain work and brain imaging. Annu. Rev. Neurosci., 29, 449-476.
- Shulman, G. L., Fiez, J. A., Corbetta, M., Buckner, R. L., Miezin, F. M., Raichle, M. E., & Petersen, S. E. (1997). Common blood flow changes across visual tasks: II. Decreases in cerebral cortex. J. cogn. neurosci, 9(5), 648-663.
- Whitfield-Gabrieli, S., & Ford, J. M. (2012). Default mode network activity and connectivity in psychopathology. Annu. Rev. Clin. Psychol., 8, 49-76.
