記憶の想起、未来の想像、他者の心の推測、道徳的ジレンマをはらんだ意思決定など、デフォルトモードネットワーク(Default mode Network, DMN)の活動は、さまざまな状況で高まります(詳しくはこちら)。
DMNの機能について、未だ統一的な見解は得られていませんが、多くの研究が DMNの活動と「内的な世界」の関わりを支持しています。
瞑想は、自分の「内的な世界」の探求です。瞑想中に脳で何が起こっているかを考えるとき、DMNの活動はひとつの鍵になるかもしれません。
以下では、DMNの機能に関する二つの仮説をご紹介します。
DMNの機能
米ハーバード大学のBuckner博士らの2008年の論文では、DMNの機能について、二つの仮説が提案されています(Buckner et al., 2008):
- 仮説1:内的精神作用仮説(Internal mentation hypothesis)
- 仮説2:見守り機能仮説(Sentinel hypothesis)
近年は、どちらかといえば仮説1を支持する報告が多く見られますが(例えば、Qin & Northoff, 2011; Whitfield-Gabrieli & Ford, 2012; Buckner, 2013)、二つの仮説は、どちらかが正しければ他方が間違っているとも言えないものです。
仮説1: 内的精神作用仮説
DMNの機能的役割が、「内的な世界」の情報処理であるとする仮説です。
この仮説を理解するために、DMNを構成する脳領域とその機能を見てみましょう。DMN研究の第一人者である米ワシントン大学のRaichle博士は、DMNの主たる構成要素を三つにわけています(Raichle, 2015):
- 感情の処理に関わる腹内側前頭前皮質(ventromedial prefrontal cortex, vmPFC)
- 自己にかかわる精神活動に関連する背内側前頭前皮質(dorsomedial prefrontal cortex, dmPFC)
- 過去の経験の追憶に関わる後帯状回皮質(posterior cingulate cortex, PCC)・楔前部(precuneus)・外側頭頂皮質(lateral parietal cortex)
また、これらと合わせて、いつ・どこで・誰と・何をしたという記憶(エピソード記憶)に関わる内側側頭皮質(medial temporal cortex)を含める場合もありますが、この領域は、前述の三領域とはある程度独立に活動しています(Buckner et al., 2008; Andrews-Hanna et al., 2010; Whitfiled-Gabrieli & Ford, 2011)。
ここで注目していただきたいのは、DMNを構成する脳領域の機能が、感情の処理・自己にかかわる精神活動・追憶・記憶など、「内的な世界」に関係する機能を持っていることです。
また、DMNの活動は、自分に関する記憶の想起、未来の想像、他者の心の状態の推測、道徳的ジレンマをはらんだ意思決定など、どれも「内的な世界」に関係する状況で高まります(Buckner et al., 2008)。
これらのことから、DMN活動は、誰の心にもある「内的な世界」の情報処理にかかわっていることが予想できます。
Fig.3には、上記の脳領域のおおよその場所を示しました(Buckner et al., 2008より引用、改変)。

Fig.3 DMNを構成する脳領域。「何もしていないとき」に活動が高まる領域(DMN)が青色で示されている。上は左脳の外側から見た図、下は左脳の内側から見た図。Buckner et al., 2008より引用、改変。
仮説2:見守り機能仮説
DMNの機能的役割が、予期せぬ事態に備えて「広く全体的な注意」を維持することであるとする仮説です。
たった今行っている作業から注意が逸れて心がさまよい出す「マインドワンダリング(Mind-wandering)」中には、DMNの活動が高くなります(Mason et al., 2007)。このことからわかるように、DMNの活動と注意には深い関係があます(Whitfiled-Gabrieli & Ford, 2011)。
アメリカ国立衛生研究所のStein博士らは、「広く全体的な注意」がDMNの活動を高めることを報告しています(Hahn et al., 2007)。この研究で被験者は、視野の中に「点」が現れたらできるだけ早くボタンを押して報告する課題を行っています。点が視野の中のランダムな位置に出現する場合、視野全体に広く分散された注意を維持する必要があります。このような課題を遂行するとき、DMNの活動が高いほど課題の成績が良くなることがわかりました。これに対して、視野の中の特定の場所に点が現れる一点集中型の課題では、DMNの活動と成績に相関関係は見られませんでした。
また、DMNを構成する領域のひとつである楔前部を損傷すると、視野が注意の対象にのみ絞られてしまうバリント症候群と呼ばれる症状が現れます(Meslum et al., 2000)。
これらのことから、DMNは、予期せぬ事態にそなえて、「広く全体的な注意」を維持するための神経ネットワークであることが予想できます。同じ仮説は、DMNに関するもっとも初期の報告のひとつであるSchulmanらの報告でも提案されています(Schulman et al. 1997)。
まとめ
- DMNの機能として二つの仮説がある
仮説1:DMNの機能が内的な世界の情報処理であるとする「内的精神作用仮説」
仮説2:DMNの機能が広く全体的な注意を維持することであるとする「見守り機能仮説」
引用
- Andrews-Hanna, J. R., Reidler, J. S., Sepulcre, J., Poulin, R., & Buckner, R. L. (2010). Functional-anatomic fractionation of the brain’s default network. Neuron, 65(4), 550-562.
- Buckner, R. L., Andrews‐Hanna, J. R., & Schacter, D. L. (2008). The brain’s default network. Ann. N. Y. Acad. Sci., 1124(1), 1-38.
- Buckner, R. L. (2013). The brain’s default network: origins and implications for the study of psychosis. Dialogues Clin. Neurosci., 15(3), 351.
- Hahn, B., Ross, T. J., & Stein, E. A. (2006). Cingulate activation increases dynamically with response speed under stimulus unpredictability. Cereb. cortex, 17(7), 1664-1671.
- Mason, M. F., Norton, M. I., Van Horn, J. D., Wegner, D. M., Grafton, S. T., & Macrae, C. N. (2007). Wandering minds: the default network and stimulus-independent thought. Science, 315(5810), 393-395.
- Mesulam, M. M. (2000). Principles of behavioral and cognitive neurology. Oxford University Press.
- Qin, P., & Northoff, G. (2011). How is our self related to midline regions and the default-mode network?. Neuroimage, 57(3), 1221-1233.
- Raichle, M. E. (2015). The brain’s default mode network. Annu. Rev. Neurosci., 38, 433-447.
- Shulman, G. L., Fiez, J. A., Corbetta, M., Buckner, R. L., Miezin, F. M., Raichle, M. E., & Petersen, S. E. (1997). Common blood flow changes across visual tasks: II. Decreases in cerebral cortex. J. cogn. neurosci, 9(5), 648-663.
- Whitfield-Gabrieli, S., & Ford, J. M. (2012). Default mode network activity and connectivity in psychopathology. Annu. Rev. Clin. Psychol., 8, 49-76.
